焼津市立総合病院

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その他のご案内

医学生の方へ



地域医療研修の実際

研修内容

 研修内容としては、指導医診療所での外来診療を中心に、在宅医療なども含め、できるだけ日常診療の様子を通して「かかりつけ医」としての役割などを見てもらった。また医師会訪問看護ステーション、焼津北訪問看護ステーションで訪問看護の同行を行い訪問看護の現場も体験してもらった。介護保険に関しては、指導医による制度の概略説明始め、意見書作成要領などや、介護保険認定審査会にも機会があれば参加してもらい、理解を深めるようにした。
                                                        焼津市医師会 研修指導責任者  中山力英

【地域医療研修協力先】

■焼津市医師会    http://www.yaizu.shizuoka.med.or.jp/
■浜松市国民健康保険 佐久間病院    http://www.sakumahp.com/
■医療法人社団正心会 岡本石井病院    https://www.seishinkai-med.or.jp/

地域医療研修レポート

【浜松市国民健康保険佐久間病院】
■2年次 基幹型 臨床研修医 K.S


 佐久間病院は浜松市北西部に位置するへき地医療拠点病院であり、一般外来や入院治療の他、訪間診療や無医地区への巡回診療、病院への通院が厳しい患者宅への往診等を行っている。今回の研修では、この訪間診療や巡回診療に同行し、実習をさせていただいた他、通院実習や訪間看護、デイサービスや地域活動への参加等を通じて、佐久間で生活する人々の医療・介護状況について学ぶことができた。

 訪問診療・訪間介護では自宅から病院に通院することが難しい患者の自宅へ訪れ、バイタル測定や血液検査、間診等を行った。佐久間町は山林地域であり、実際に患者のお宅へ訪問してみると車を停めてから自宅まで急な坂道が続いており、足腰の悪い患者や心疾患や呼吸器疾患で坂道の移動が難しい患者では通院することがいかに困難か感じることができた。佐久間に住む人々は生まれ育った地を愛し、この地域に住むことに強い希望を持っている方が多く、自宅に戻ってこられて(いることができて)良かったと、嬉しそうに語る姿をみて、不自由があったとしても最後までこの地域、自宅で暮らしたいと願う気持ちに答えるため、訪間診療や往診の必要性を強く感じた。

 通院実習では地域のコミュニティバスである「ふれあいバス」に乗車し、病院から自宅へ帰宅する患者とともに城西駅まで移動し、JR飯田線に乗車し、病院へ帰ってくる体験をした。佐久間町は168km²と広大な土地を有する一方、医療機関はほとんどなく、病院から1時間以上かけて自宅へ帰る方もおり、遠方から時間をかけてこられる患者様の苦労を実感した。

 地域活動では、山香地区の「こいね―」や野田地区の「健康サロン」、浦川地区の「しゃくなげ会」に参加した。「こいね―」では山香ふれあいセンターで定期的にサロン活動等を行っており、地域に住む方々が集まり、体操やゲーム、健康維持のための講和等が開かれている。地域に住む高齢の方が多く参加されており、研修させていただいたときは職員も含め20-30人ほどの人数で一緒にボールを投げ入れるゲームや、風船すくいなどを行った。参加者の方は高齢ではあったものの驚くほど元気で活動的な方が多く、地域活動や運動を続けることの重要性を実感した。

 佐久問病院での地域研修を通じて、地域に暮らす人々が地域を愛し、地域のコミュニティや住民の心身の健康のために互いに支えあい、様々な活動を行っていることを知ることができた。地域に暮らす人々が健康に暮らすため、地域住民の健康を支える地域医療の必要性を実感することができた。

【医療法人社団正心会 岡本石井病院】
■2年次 基幹型 臨床研修医 H.S

 令和6年7月1日~7月26日まで、地域研修を岡本石井病院で研修させていただきました。
 岡本石井病院では急性期一般病棟、地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟、医療療養病棟の4種類の病床があり、研修中は急性期一般病棟と地域包括ケア病棟の患者を担当させていただきました。

 一般病棟では焼津市立総合病院にも入院されるような急性期の患者さんが入院され、地域包括ケア病棟では主に自宅復帰にむけてリハビリを行われる患者さんが多かったです。また、独居で在宅療養されていましたが、急性疾患により入院が必要になった患者さんもいらっしゃって、普段は関わることのない地域包括ケア病棟を必要とされる患者さんがいらっしゃることを痛感しました。

 地域包括ケア病棟では、60日まで入院でき、入院費はDPC制度のある一般病床とは異なり、一律で加算されることも学びました。研修ではいつもに増して必要十分な検査を患者に行うように心がけるようになったため、この費用の制度には、地域包括ケア病棟が本来の目的で使用されるように作られているのだと感じました。また、60日間という制限があることで、患者さんも目標を立てやすいと感じました。

 さらに、訪間診療の研修では、岡本石井病院の関連施設に伺いました。関連施設は種類が豊富であり、介護付有料老人ホーム、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、グループホームの制度の違いに対して、実際にどのような患者さんが入所していらっしゃるか見ることで理解が深まりました。国試の公衆衛生を勉強しているだけではあまり違いを想像することができなかったのですが、研修を通してイメージがつくようになりました。

 【浜松市国民健康保険佐久間病院】
■2年次 基幹型 臨床研修医 N.S

 私は地理・風土・歴史を調べるのが好きで、今回の研修に当たっても旧佐久間町を中心とした地域の成り立ちに関して事前に情報を仕入れました。それだけでも十分興味深かったのですが、研修期間中も平日は実際に住んでいる方々とコミュニケーションを取り、週末は周辺地域を探索し、別角度から同地域を見渡す中でより見識が深まったように感じます。日々生まれる疑問をその場で質問・検証できる環境は非常に刺激的でした。ありがとうございました。

 中でも特に頻繁に浮かんだ疑問は、「彼らがなぜそこに住んでいるのか」ということでした。もちろん生まれる場所は選べませんし、以前はダムや久根鉱山など様々な理由で栄えていたことは理解しましたが、交通の便で都市部に圧倒的な差をつけられている現状を考慮すれば、引っ越すのが一番合理的ではないかと常々思っていました。また、高齢化と人口減少が進んで周囲の友人も亡くなっていってしまう場所に住み続けるのは寂しいのではと率直に思いました。特に、福沢巡回診療の最後に島地区の方を訪問した時や、廃墟と化した夏焼集落を訪れた時に強い寂寥感を覚えました。
 1ヶ月経て出た一応の答えは、彼らにとって最も住みよいのは結局そこなのだろうということです。道がまた落石で通行止めになったとか、あそこの家はとっくのとうに空き家になっているだとかいうことを、皆さんは笑顔で話してくださいました。不便や寂しさがどれだ けあろうと、それが住民同士の連帯感や長年そこに住んだというある種の自信を凌駕することは決してないのだろうと身をもって感じました。

 以上を踏まえると、今の住民はそこに住み続け、都市部からの若者の流入は少ないと思われるので、やはり今後も過疎化は進むだろうという予想に至ります。そんな地域での医療においては、自宅生活にまで踏み込んだ全人的な介入と、個人レベルでの広範囲にわたる知識技術の獲得が重要だと学びました。現に佐久間病院ではそのような医療が実践されていました。前者については、在住地域やADLに応じて通院と訪問診療を使い分けていること、通院ひとつとっても本院—診療所—地域集会所と多段階的に医療者が患者側へ近づいていること、小地域活動などで医療以外の話題でも会話していることが挙げられます。後者に関しては、先生方が診療科を跨いだ知識を持っていらっしゃるのはもちろん、内視鏡や画像検査・血液検査まで一人でされていることに驚きました。

 今の私は小児科や公衆衛生に興味がありますが、10年後20年後にどんな仕事をしているかは正直全く想像がつきません。ただ、これからどこかのタイミングで佐久間に関わることがあれば、熱心に取り組めるような気がします。改めて、1ヶ月間ご指導ありがとうございました。

 【浜松市国民健康保険佐久間病院】
■2年次 基幹型 臨床研修医 S.K

 2021年10月4日から10月29日まで、浜松市国民健康保険佐久間病院にて地域医療研修をさせて頂いた。カーナビを頼りに焼津から佐久間まで来たが、道中は不安になるほど 森深く、表示された予想所要時間は何倍も長く感じた。静岡県出身ではあるものの県内でこれほどの山合を訪れたのは初めてであり、1ヶ月後の自分自身を案じた。

 放射線科研修から始まった。当直では技師が不在と聞いた時の心細さは忘れない。初めて自分自身で機械を触って、検体検査やレントゲン・CTの撮影をした。自分でやってみると、より良く撮影するためにこだわりたくなる。日常業務で頻回にオーダーするレントゲンだが、奥深さを感じた。いつも質の高い画像を提供してくださる技師の方々に感謝したい。

 今回の研修では放射線科研修のほか、巡回/訪問診療や診療所業務、デイサービス見学な ど豊富な内容だったが、研修のメインは外来研修だったと感じる。基幹病院での外来研修と異なったのは一人の患者について一力月を通じた継続的な診療を経験できた点だ。救急外来とは違い、今この瞬間の主訴にフォーカスする"点”の医療ではなく、これまでの経過からこれから先へ至る"線”の医療を経験した。処方内容がなぜそうなっているのか、処方に変更は必要か、検査が必要か、検査はいつ行うか、結果の説明はどうするか、入院適応なのか等々、病院ではよく行われていることだが、深く考えたことはなく、本研修で外来特有のマネジメントを経験できたのは良かった。また、基幹病院のように例えば超音波検査を技師がすべての検査を行ってくれるわけではなく、自分で行う必要もあり、自分のスキルが試された。今後のマネジメントに自分の検査所見を用いる、責任感と少しの恐怖を感じた。今までの研修の中で、自分自身で検査をする機会は何度もあったが、私が信頼に足る検査ができているかどうか不安が残る。検査手技について反省し、練習を重ねて上達したいと思う。

 研修を通して、初めてのこと、できないこと、考えたこともないことを経験し、医療に対する視野が広くなったように感じる。自分でやってみることの大切さも再認識でき、どこか現状に満足していた私に向上心を思い出させて頂いた。
 最後になりますが、病院スタッフの皆さまには大変お世話になりました。また、院長三枝先生には外来研修をはじめとし、多方面でご迷惑をお掛けしました。重ねて感謝申し上げます。

 【医療法人社団正心会 岡本石井病院 】
2年次 基幹型 臨床研修医 K.A

 2022年1月4日から1月28日まで岡本石井病院で地域医療研修を行った。
 地域医療研修では、急性期から慢性期の患者の病棟管理から退院まで、その経過を含めて幅広いことを学ばせていただいた。特に岡本石井病院の特性として一般病棟、地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟、療養病棟があるため、一人の患者の入院からリハビリ、自宅退院が困難であれば施設への退院調整まで学ぶことができた。そして、院外研修としても、普段みる機会がない訪問診療の様子を拝見することができた。

 印象的だったことは、普段研修している焼津市立総合病院で急性期治療を終えて転院となった患者の、その後の退院に至るまでの経過をみることができたことである。これまでは転院となった後の患者を実際にみることはできず、ぼんやりと抱いていたイメージだけだったが、実際にその後の様子を知ることができたことは、非常に貴重な経験となった。
 今回の研修期間は静岡市立病院の研修医の先生と一緒に、平田院長のご指導のもと医療を学ばせていただいた。外来診療から入院になった患者に関しては平田院長のご指導のもと患者、家族に対する面談から入院手続き、治療方針の決定、リハビリの導入、退院調整まで担わせていただいた。普段はあくまでも担当医としての視点で物事を考えがちだったが、今回の研修では与えていただける裁量の分、自分が主治医の立場となったら、患者、家族にとって何が最良なのかと何度も深く考えさせられた。特に、高齢者の場合、治療に専念するだけでなく、適切なタイミングで早期リハビリを行うことでADLの低下を防ぎ、自宅あるいは施設への早期退院が実現し、結果的に患者家族の負担も減らすことにつながると実感した。

 1ヶ月という短い期間ではあったが、指導医の平田先生をはじめ各診療科の先生方、看護師、PT・OTの方々、各施設関係者の方々、大変お世話になりました。
 コロナ禍の中、まだまだ予断を許さない状況が続きますが、今回の経験を糧に、今後の医療に貢献できるように精進します。

 【医療法人社団正心会 岡本石井病院 】
2年次 基幹型 臨床研修医 M.Y

 岡本石井病院にて1ヶ月間の地域医療実習を行った。岡本石井病院は一般病床、地域包括ケア病床、療養病床からなる亜急性期から慢性期を主に担当する病院であり、外来診療、入院診療に携わった。入院患者層としては、焼津市立総合病院などの急性期病院からの(自宅退院を目指した)継続療養、外来患者の一時的な入院、医療介入の必要な患者の長期療養、基礎疾患を抱える高齢者の終末期、に大きく大別された。また関連施設であるグループホームでの診療、在宅患者への往診にも同行した。
 
 第一に、人生の終末をどう迎えるかという問題がケアの主眼に置かれることが多かったのが印象的であった。人生の最期の場所については、8割は自宅での最期を望むが実際には8割が医療施設で最期を迎えるというギャップ、本人は家族の負担になりたくないと望むが、子供は家族で十分な時間を過ごしたいというギャップがあり意思決定の難しい領域である。いざ療養病床での最期を迎えることを最終的に選択したとしても、面会の難しいコロナ禍においては入院後の家族の時間がなかなかとりにくいという現在ならではの新たな悩みも見受けられた。本人の価値観、家族関係、など患者のこれまでの生活すべてが診療に反映される様子が新鮮であった。

 第二に、リハビリテーションの役割の大きさを実感した。長期療養の患者においては廃用症候群を来すことも多く、ともすれば入院前よりもADLが低下してしまうことも珍しくない。ADL低下は意欲の低下も来たし、全身状態の悪化にもつながっていく。リハビリの介入によってADL低下を最小限にとどめ、また退院後の生活にスムーズに戻っていく為に、リハビリテーションが重要な役割を果たしていることを再認識した。

 第三に、施設との連携の重要性を認識した。グループホーム等施設で生活する高齢者は医療必要度としては入院患者よりも少ないが、いつ入院を要する状態になってもおかしくない人が多い。定期的な訪問診療を行うことで、些細な調子の変化を拾い上げ、入院を要する前にケアする現場に何度も立ち会った。医療を要した患者への治療のみならず、医療を要しないようにする予防活動にも関わっており、慢性期医療の幅の広さを肌で理解した。

 第四に、患者との心理的距離の近さが印象的であった。急性期病院に比べて地域に密着した医療を提供している関係上、外来患者も入院患者もその家族も、病院と何らかの関係があり医療スタッフと顔見知りの関係であることが多い。患者同士が知り合いであることもままあり、患者同士のコミュニケーションを目撃する事も多かった。病院という普段の生活とは違う場所にいるとはいえ、顔見知りであることでの安心感もあるように感じられた。

 亜急性期、慢性期医療の様々な面に触れた1ヶ月間であった。今後しばらくは技術修練の研修で急性期病院での勤務が多くなると想像するが、自分の携わっている部分が、医療全体のどこに位置しているのか相対化して日々の研修に臨んでいきたい。

 【浜松市国民健康保険佐久間病院】
■2年次 基幹型 臨床研修医 Y.H

「佐久間より愛をこめて」

 佐久間の風景 静岡県の西北、遠州北部の山中。浜松市天竜区に位置する佐久間は、浜松市に編入される 2005年までは佐久間町として存在していた。その人口規模は、鉱山業やダムの建設業などで最も栄えていた時期には、3万人程度だったが、合併時には6000人程度、今年度は3000人程度と年々減少傾向に為るようだ。高齢の地元住民より、自分の子供たちの世代から、近いところでは浜北や新城へ、遠くでは東京や名古屋などへ移り住むようになった、という話を少なからず耳にした。実際に、豊橋まで電車で2時間程度、浜北まで車で1時間弱かかるこの地域は、腰を据えて暮らし住むには少しためらう。これは、情報化の進んだ現代社会でもやはりそうだし、利便性が強く求められる現代社会だからこそそうなのだ、とも言えるかもしれない。

 しかし一方で、利便性と健康度は必ずしも正に相関しない、ということもまた確かである。例えば、焼津市は静岡市に隣接しており、利便性はある程度高く、医療へのアクセスも悪くないが、90歳を超えてなお健康に過ごしている人はあまり見かけない。逆に、佐久間では山道を歩きで上り下りする後期高齢者は珍しくない。人は少ないけれど、元気な人は多い印象だ。どうやら、便利だからといって長生きするわけではないし、不便だからといって病気になるわけでもないらしい。過疎化の先に長寿化(あえて高齢化とは言わない)が見られるのは、面白い現象だと思った。

診療所の様子 佐久間病院における(医師の)主な業務は、佐久間病院本院、浦川診療所、山香診療所での診療に加えて、巡回診療、往診になる。院外での移動手段は主に自動車で、付属の診療所へは10ー15分程度、往診は住所によるが、長いと1時間弱かかる。患者層は大体80歳以上で、先に述べた通り、元気な人が多い。12月は寒い日が続いており、みんな厚着で対策していた。山香診療所では懐かしい石油ストーブも出ていた。
 巡回診療のため、渓谷を車でガタゴト移動しているとき「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という言葉をふと思い出した。これは、生存権という概念として、小学あるいは中学の社会科で学ぶ、憲法第25条の条文である。調べてみると、続いて第2項もあるようで、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」とある。なるほどなぁと感じた。
 数百万人が忙しく動き回る大都市と、百人に満たない地方集落。この互いへ平等に医療を提供すること、つまり個人をその年齢・性別・住所・思想・職業・資本・家系によらず、ただ人であるということだけに基づき尊重すること、これが社会福祉の究極的な目標の一つである。もちろん現実的には提供できる医療や介護に差はあれど、こぢんまりとした診療所や患者宅で行う、いわゆるへき地医療は、社会福祉の主たる実践なのだと思った。言葉にしてしまうと当然のことで、安っぽく見えてしまうが、日本が福祉国家を目指す以上、これは本当に大切なことだと、曲がりくねる山道の中で肩を左右に揺らしながらそんなことを思った。

佐久間の風景 通勤の道中で、病院を中心に佐久間の集落を一望するのは秘かな楽しみだった。朝は霧とともに爽やかな空気を感じ、晩は灯りが点いている一つ一つに人々の生活が感じられた。たった一度の佐久間での週末は、晴天のもと、天竜川の清流沿いを散歩し、林の中にある神社を探検し、住宅に紛れ込んだ薬師堂や祠を見つけては子供のように喜んだ。車が無いので出歩くにも限りがあったが、今となってはこの制約が良いように働いたように感じる。
 この二週間で、だいぶ大らかな気持ちになれた気がします。地域医療研修の本質からは外れるかもしれませんが、そういう精神面の影響が一番の糧だったように思います。病院スタッフの方々、また地域住民の方々、そして風光明媚な天竜の自然には、大変お世話になりました。月並みな言葉になりますが、ありがとうございました。

  【浜松市国民健康保険佐久間病院】
■2年次 基幹型 臨床研修医 A.M

 2020年9月14日、菅義偉氏が自民党総裁に選出された。彼の掲げる理想の社会像「自助・共助・公助、そして絆」が妙に馴染み深く感じるなあと家でボーっとテレビを眺めていた日曜日。これが実現されているのが、私が今いる佐久間の地なのだ、と後に気付く。

住民の集まり 研修2日目に薬剤師さんがおっしゃった、「佐久間は86歳が一番多いんだよ、ありえんよねえ!」という言葉があまりに衝撃的で忘れられない。山道が多く、また農作業に従事されてきた方が多いからか、見た目は平均マイナス15歳といったところ、足腰が強く、心なしか手の血管もしっかり浮き出ている気がした。地域のコミュニティが発達してお互いの事を良く知っており、診療所は常に話し声で満ち、血圧が高めに出る人が続出する。順番が来て名前を呼ぶと「あの人は一旦家に帰ったよ、すぐそこだから大丈夫」「あの人はトイレに行っているけど、腰が曲がっているから時間かかるかも」などと、こちらが助けられることも稀ではない。病院受診や退院の迎えの際、親族以外の近隣住民に送ってもらった、という声をよく聞いた。また、「こいね一」や「しゃくなげ会」などの自主的な集まりでは、毎月工夫を凝らして、自ら、またお互い高めあいながら健康づくりをしよう、という強い意思が感じられ、いきいきとしたパワーをいただいた。山間部で受診が気軽にできない地域も多いからこそ、医療に頼る前にできることを出来る限りする、という文化が根差しているのではなかろうか。
 普段の診療では、自分が患者さんに何ができるか、ということばかり考えがちだが、佐久間の方々に触れたことで改めて、健康はそもそも自分で作るもので、我々はあくまでその手助けをする立場なのだ、という当たり前のことに気付けただけでも、ここに来た意味があるといえるだろう。

山香診療所 住む人々が特徴的なら、医療者も当然、特徴的である。医療資源は限られているはずなのに、むしろ何でもできる、という印象を強く受けた。消化管出血の内視鏡を行ったかと思えば胸腔ドレーンを挿入する、敗血症患者を診たと思えば外傷の縫合をする、急性心膜炎の転院搬送を終えたと思えば、病棟の末期がん患者さんの緩和ケアについて考える。急性期の患者さんを病棟に抱えつつ、すれ違いのできないような山道を運転して、訪問診療や往診、診療所へ向かい、診療だけではなく話し相手の役目も果たす。 
 患者さんの状態や家庭環境を把握した上で、適切な医療・介護サービスを提供する。他職種の方も同様で、外来をしつつ救急対応をし、交代で往診に同伴してくださる看護師さん、たった二人で細菌検査から生理検査まで担う技師さんなど、その幅広さの例は枚挙に暇がない。
 いちいち慌てる私をよそに、「やるしかないじゃん」とどんな患者さんが来ても至って平常心の先生方を見て、確かにその一言に尽きる、とぐうの音も出なかった。出来る限りのことをやる、できなければ適切な専門家に相談する、経験と勉強で出来ることを増やす、の積み重ねをひたむきに行うことが、プライマリケアの担い手としての幅を広げる方法なのだ、と考えさせられた。
 公的な介入も、地域の人々を支える上で不可欠であることを実感した研修でもあった。健康教室などで予防医学の大切さの啓発に努め、同時にどういう時は病院に来るべきかを伝える。必要あれば入院して治療を行い、適切なリハビリを受け、介護や通所の回数を多職種で話し合って見直し、家庭環境を整え、在宅へ戻る。この一連の流れを経験することは、実は、総合病院ではなかなかできないとても貴重なものであると思う。各段階で、それぞれの職種の方が存分に専門性を発揮されており、自分の知識を増やすよりもシンプルに、「こういう時はこの人に頼ればいい、この人にお願いすればこんなことまで考えてくださる」ということがよく分かった。以前読んだ緩和ケアの本に書いてあった、「本当に賢い医者は、自分の知識が多いのではなく、頼れる人が多い」という言葉が生きてくる瞬間だった。
 保健師さんや福祉士さんも、病院の職員同様、住民の方のことを熟知されている。合同のケアカンファは私以外全員が、名前を挙げただけで「どこの誰で今どんな状況かわかる」という圧巻のものであり、完全に置いてけぼりをくらったが、全く不快ではなかった。佐久間の医療の在り方が、このエピソードに集約されているのではないか。

浦川診療所 利用者が減る一方のふれあいパスや、空き家が目立つ集落など、高齢化に伴う過疎化が進む様子を目の当たりにし、その中でもここでの自分らしい生き方を追求し、幸せそうに暮らす方々の姿に、何とも言えない感情が込み上げた。しかし、これは間違いなく、そう遠くない未来、日本のどこでも見られうる光景であり、こういった状況の中で何が出来るのか、何をすべきかを学ぶことは、これから医療を担う身として必要不可欠なことだと感じた。常に情報のアップデートが求められる医療の世界において、論文で最新の知見を得ることだけでなく、ここでの学びもまた、アップデートの一環といえるのではないか。そう思うと、新総理の目指す社会の方向性も、あながち間違っていないのかもしれない。

 豊かな自然とあたたかな人々に囲まれ、医師として、ひとりの人間としての視野が広がった1ヶ月でした。ここで学んだことは、必ず今後の人生に活きてくると確信しています。実り多き、忘れられない研修になりました。ありがとうございました。

 【医療法人社団正心会 岡本石井病院 】
2年次 基幹型 臨床研修医 D.G

 2020年9月28日から10月30日までの5週間を医療法人社団正心会岡本石井病院での地域医療研修に従事した。主に研修期間中は病院長平田健雄先生の指導下で40〜50人程度の入院患者の診療・病棟管理や入退院調整を行い、適宜在宅や施設への訪問診療、公立小学校への健康診断に同行した。

 入院症例の内訳としては高血圧、心房細動、糖尿病などを背景として発症した虚血性・出血性脳卒中や、骨粗鬆症を 基礎とした脊椎圧迫骨折に、加齢による衰弱、あるいは独居や所謂「老々介護」などの社会的理由が重複する、という正に地域医療らしいケースが多くを占めた。加えて、指導医の専門が呼吸器内科であること から間質性肺炎およびその類縁疾患の入院症例を多く経験した。

 加療の内容としては、上記疾患を抱える患者に対して慢性期の一般内科的な管理を行い、理学療法、作業療法、言語聴覚療法を行うことが主であり、理学療法士 ・作業療法士・言語聴覚土が施すリハビリテーションが慢性期の高齢患者の回復に如何に大きな役割を果たしているかを肌で体感した。また、間質性肺炎に対する副腎皮質ステロイド投与を軸とした投薬加療を呼吸器の専門家から直接学ぶことができたのは非常に良い経験となった。
 外来から 緊急入院となった市中肺炎や尿路感染症、皮膚軟部感染症など急性期の感染症例を診療する機会にもしばしば恵まれたが、一方で入院患者でも義歯誤飲に対して内視鏡的摘出するため他院へ救急搬送した症例や、急性腹症および敗血症性ショックに対して外科的加療を行う目的で同じく他院へ救急搬送した症例、原因不明の低カリウム血症について他院専門科に紹介した症例など、自施設の医療資源で対応できる限界を超えると判断した症例については早急に他医への紹介を行った。これは、人的・物的資源が比較的豊富である自身の初期研修の基幹施設では意識しなかった事柄である。地域医療を行う上では単施設で医療を完結することが出来ない局面に度々遭遇するため、近隣の各施設においてどのような医療が提供できるか、各施設がどのような特性を有しているか情報を交換しながら互いに連携して診療にあたる必要があることを強く認識した。
 医療以外の側面においても、特別養護老人ホームや介護老人保健施設など介護施設との連携も慢性疾患を抱える高齢者が大多数を占める地域医療では重要であることを理解した。

 最後に、終末期の呼吸苦に対して指導医との相談の下にオビオイドを導入した症例があった。患者は自身の担当期間中に亡くなったが、それでもオビオイドの導入により苦痛の緩和に成功した経験を持ったことは本実習の中で望外の僥倖であった。
 指導医平田先生を始めとして、5週間御教導いただきました皆様に深く感謝申し上げます。

【医療法人社団正心会 岡本石井病院 】
2年次 基幹型 臨床研修医 S.U

 地域医療研修として岡本石井病院で一ヶ月の研修をした。岡本石井病院は、一般病棟、地域包括病棟、回復期リハビリテーション病棟、医療療養病棟を持つ病院で、急性期疾患から慢性期疾患の在宅・社会復帰を目指す患者に対してリハビリテーションを軸に支援する地域ケアミックス拠点病院としての役割を持つ病院であった。

 私は脳神経内科を志望しており、特に脳梗塞や脳出血の分野に興味がある。脳卒中発症後2週間程度の急性期治療は研修先の焼津市立総合病院で多くの症例を経験させていただいたが、急性期治療後の在宅復帰を目指すリハビリテーションはなかなか学ぶ機会が少なかった。岡本石井病院では、このような症例を主に経験させていただき、発語と書字が困難でコミュニケーションが難しかった脳梗塞の方が、広告の文字を紙に書き写したり、発音練習をしたりすることで、一ヶ月後には発語も書字も改善し良好な意思疎通がとれるようになった症例を経験した。この症例を通し、リハビリテーションの力に非常に驚いたのと同時に、医療におけるリハビリテーションの重要さについて改めて実感した。また、リハビリテーションは患者にとっては辛く長いものであり、その気持ちを理解し、親身に寄り添い共に機能回復を目指すスタッフの方々の姿勢も非常に勉強になった。患者の気持ちを理解し寄り添うことで、リハビリテーションに対する意欲も上がり、機能回復を促進する効果につながると感じた。実際にこの一ヶ月で著しく機能が改善した症例の多くはリハビリテーションに対し意欲が強く、患者自身がリハビリテーションの時間以外に積極的にリハビリをしていることが多かった。一方で寝たきり状態の患者やリハビリテーションに消極的な症例では、機能改善に困難で拘縮の進行を遅らせたり筋量の現状維持が限界であったりとリハビリテーションの難しさも感じた。患者さまとのふれあい

 また、慢性間質性肺炎から急性気胸になり胸腔ドレナージを施行した症例や脳出血を繰り返す症例の再出血、呼吸不全を主訴とした心不全管理、繰り返す好酸球性肺炎の症例など多くの科に跨がる急性期疾患の勉強もさせていただいたり、療養型病棟の終末期の症例や施設への往診など地域医療の側面も経験させていただいたりした。

 岡本石井病院では急性期疾患から慢性期疾患のリハビリテーション、訪問診療などの幅広い範囲の医療形態と症例を経験した。今回の貴重な研修内容を今後の医療人生に活かしていきたいと強く感じた。


【浜松市国民健康保険佐久間病院】
■2年次 基幹型 臨床研修医 A.M

 佐久間は静岡県の北西部、浜松市の北部に位置し、愛知県東部と接している。佐久間のある浜松市天竜区は人口の43%が65歳以上と高齢者の多い土地である。一番近い医療機関である佐久間病院を受診するのに、自宅から1時間ほどかかる人もいると聞き驚いた。山間部の人は佐久間病院へ通院するのが困難であり、付属診療所を受診したり、巡回診療の時に受診したりし、精査が必要である場合は佐久間病院に来院して頂いていた。全て同じ医師が業務を行っているが、診療所と佐久間病院が密に連携して医療を提供しているのが印象的であった。

 今まで時間外でも検査技師や放射線技師が常駐し、オーダーを出して検査を施行して頂いていたので、単純X線写真や限られた項目の血液検査を医師が施行しなければならない環境に驚いた。同時に今まで自分がいかに恵まれた環境にいるかを確認することができた。また、医師が少ないこともあり、内科医であろうと患者さんが整形外科疾患で受診すれば、整形外科領域でも初期対応をしていた。総合的に患者さんを診ており、幅広い知識を持ち、常に情報をアップデ一トしている上級医を見習いたいと思った。

 また、役場の保健師の活動に同行して、地域の集まりに顔を出し、健康教室や健康教育を行い、筋力低下や転倒などの予防をしたり、日ごろの食生活に関してアドバイスをする様子を見させていただいた。ケアカンファレンスでは職種間で患者さんのことだけではなく、患者さんと家族の関係もそれぞれの職種の人が詳しく把握しており、その患者さんに対してできる範囲でどのような支援を行政側から提供できるかを話しあっていた。今まで退院後の患者さんがどう生活していくか、また退院後どのような支援を受けられるかなどに関して全く知らなかったので、わずかではあるが知ることができよかった。デイサービスに通っている方がどのようなことをしているかを知る機会もあり、思ったよりも高齢者が身体を動かしているのに驚くと同時に自分も運動をしなければならないと感じた。佐久間地域の風景

 「こいね一」「しゃくなげ会」という地域の集まりに参加させて頂いた。山間部に住んでおり、外食しようにもできない環境のため自坎で健康的な食生活をし、足腰が丈夫な人が多いのか、今まで年齢から想像していた高齢者像よりも若々しい方が多かった。集まりに参加して、お互いが集まりに来れる程度には元気なのを確認していた。集まりに参加すると 「あの人達は若いのよ」と言われることがあり、年齢を聞くと「若い」は70歳台であり、かなり驚いた。

 人数は多くはないが、地図上で幅広い地域の医療をカバーしている佐久間病院の大切さを痛感した。高齢者の集まりに参加して、佐久間病院の医師への感謝の言葉を多く聞き、患者さんと信頼関係を築いていることが分かった。患者さんとの接し方も思いやりを持とうと改めて思った。

【焼津市医師会】
2年次 基幹型 臨床研修医 T.K

 地域医療研修におきまして、2週間にわたってクリニック5件、訪問看護ステーション1件の見学をさせていただきました。中山先生をはじめ、、ご指導頂きました方々に感謝いたします。
 各診療所・ステーションで特に勉強になった事柄について以下に記します。

■中山クリニック
 院長の中山先生が看護師を雇わずに一人で診療関連業務をこなしていることが印象的でした。勤務医と比較して開業医は自由度が高いイメージがありますが、クリニックの経営方針など医療行為以外のことに気を配らなければならず、全責任が自分にあることもあり、決して楽な道ではないと痛感しました。

■のがきクリニック
 一般内科診療80名程度に加えて、内視鏡を1日7件実施しておられるところが印象的でした。先生1人で外来と処置を行われておりましたが、看護師との連携もありスムーズに対応していました。

■医師会訪問看護ステーション
 アミトロで寝たきりの患者さんの看護に同席しました。患者さん本人だけではなく、介護しているご家族に対しても声をかけていたことが印象的でした。

■ふくむらクリック
 ここでは、一般的な内科外来を見学した他、療養型施設往診の同行もしました。ADLが著しく低下しており、自身では病院に通うことが困難な方々に対して診察を行いました。

■焼津駅前整形外科クリニック
 ここの外来は3ブース+処置室1カ所があり、先生がブースを転々としながら非常に効率よく診察していました。様々なクリニックを見学しましたが単位時間あたりの診察人数はずば抜けている印象でした。非常に多数の患者さんを診察するための工夫がなされており勉強になりました。
 また、クリニックに広々としたリハビリテーション施設があり、理学療法士、柔道整復師、中高老年期運動指導士がおり、運動療法(関節可動域訓練、筋力訓練、動作訓練等)や物理療法(温熱療法、電気療法、牽引療法)を行っておりました。

■前田産婦人科医院
 2日間程お世話になりました。お産の見学、流産の掻爬手術を見学しました。院長先生が手術中にも関わらず丁寧に教えて下さり、大変勉強になりました。

 2週間で様々なクリニック・施設を見学しましたが、どのクリニックも異なる分野を勉強できるように工夫されており、非常に満足の行く実習となりました。ご指導ありがとうございました。

 


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