*はじめに
近年、日本人の2人に1人は癌に罹患する時代となっています。
がん研究振興財団のがんの統計2023によりますと、2022年部位別予測がん死亡率で、大腸癌は、男性では肺癌に次いで2位、女性では1位をしめる癌腫です。
また、本邦における大腸癌の5年相対生存率は72.5%と消化器癌の中では最も高く、また観血的な原発巣の治癒切除例と非治癒切除例の比較ではそれぞれ87.1%と32.2%であり、大腸癌の治療には根治的な切除が重要とされています(康ら 日大医学雑誌 2022)。
こうした背景から、大腸癌の手術において、術式や手術器材の面から、現在でも検討、開発が日々行われており、今回その大腸癌の手術について、術式、器材の発展の両面からお話しさせていただきたいと思います。
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*術式について
大腸は、腹腔内を右下腹部から約270度めぐる長い臓器であり、栄養血管もその部位により上腸間膜動脈系と下腸間膜動脈系に分けられます。そのため、術式はその部位によりそれぞれ規定されてはいますが、大腸癌における術式の基本的な原則が決まっています。それは栄養血管を根部で結紮、切離することで原発巣の領域リンパ節を取り残しなく摘出し、また原発巣からの播種を防ぐために腸間膜を損傷することなく、en bloc(一塊でという意味)に摘出することです。
この大腸癌における手術の大原則により、本邦の治療成績が良いわけですが、近年でも領域リンパ節のうち、特に主リンパ節言われる第3群リンパ節に対する郭清範囲の検討や、直腸癌における側方リンパ節郭清についての検討がなされ、日々進歩を遂げています。
また、大腸癌の手術成績が比較的良好な本邦と比較して、欧米では長年成績が改善しなかったことから、本邦の手術原則にならい、中枢側高位結紮(CVL)と全結腸間膜切除(CME)と名付けた原則が取り入れられるようになりました。それによる手術成績の向上も報告されており、大腸癌手術は日本が世界をリードしているといえると思います。
*手術器材の変遷
大腸癌の術式を完遂するのが、手術のやり方ということになりますが、このやり方はここ半世紀でダイナミックに変化してきました。やり方には、開発された時代順に、開腹手術、腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術があります。
開腹手術は従来行われてきたやり方で、術式により長さに長短はありますが、15-20cm程度の切開をおいて手術を行う方法です。手術を直視下で行うことができ、とっさに様々な状況に対応できることから、外科医にとっては安心感の高い方法といえます。また、腹腔鏡下手術やロボット支援下手術という別の方法がある現在、決して廃れた方法というわけではなく、現在でも様々な状況下で行われる方法です。
腹腔鏡下手術は、臍部に4-5cmの切開をおいて、おなかを膨らませる気腹装置を設置して、その他に3-4か所の1cm程度の切開をおいて鉗子を入れ、おなかの中をカメラで見ながら鉗子で手術操作を行う方法です。1991年に世界で初めて大腸腫瘍に対して行われ、それに遅れること2年後の1993年に本邦でも行われ、本邦での大腸癌に対する腹腔鏡下手術件数は2013年に20,000件を超え、2019年までに約37,000件行われています
(日本内視鏡外科学会アンケート集計)。広く普及するまでに、開腹手術と腹腔鏡下手術の成績の比較検討がなされ、また開腹手術とは全く異なる技術の習得が必要であることから、本邦では日本内視鏡外科学会による技術認定制度があり、一定の技術の担保も行われながら施行されています。
ロボット支援下手術は、手法は腹腔鏡下手術と同じですが、腹腔鏡下手術では鉗子を外科医が直に操作するのに対し、ロボット支援下手術では鉗子とその扱いを、ダヴィンチ手術システムを用いて行い、外科医はそのシステムを操作して手術を行うという点が異なります。大腸癌において、このロボット支援下手術は、まず2018年4月に直腸癌に対して保険適応となり、さらに結腸癌に対して2022年4月に保険適応となりました。
ロボット支援下手術には、1.高画像3Dシステム、2.多関節機能付きインストゥルメント、3.手振れ防止機能、4.スケーリング機能などの優れた機能があり、大腸癌における手術の大原則を完遂するのに、より適した手法といえます。
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*当院の大腸癌手術の実際
当院では、直腸癌に対するロボット支援下手術を本年6月から、また結腸癌に対するロボット支援下手術を10月から開始いたしました。それにより当院では大腸癌の手術に関して、開腹手術、腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術のいずれも施行可能となりました。この3つの手法の選択に関しましては、大腸癌の進行の程度、患者の既往歴、手術歴などから外科内で検討して、安全で最適な方法を提供できるよう努力しております。今後、大腸癌患者がいらっしゃいましたら、是非ご紹介いただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
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